2017年10月号(No.467)

 

 新建活動年報2015─2017
──地域と結ぶ建築まちづくり活動の模索

 

新建は3年後の2020年に設立50周年を迎える。この11月に開催される第31回全国大会はその大きな節目を間近に控えた大会である。充実した大会での討議に資するよう、この2年間の新建活動をオーバービューした活動年報を特集とした。繰り返される災害への取り組み、ブロック別の会議やセミナーなど支部(地域)に基盤を置いた活動の再構築――この間の活動を、詳細な年表と共に活写した。

・続発する災害への取り組み
  熊本地震をめぐる取り組み                    鹿瀬島 隆之
 東日本大震災をめぐる復興には長期的視点での支援が必要      三浦 史郎

 

・新しい新建活動のスタイルへ
 ブロック全国幹事会提案の経過と今後の展望            片井 克美
 改めて見えてきた課題をこれからに活かす(東日本ブロック会議)  大西 智子
 地域を超えた会員同士の交流が自らを元気に(中部ブロック会議)  今村 彰宏
 支部を超えた新建活動の契機に(西日本ブロック会議)       久永 雅敏

 

・「結構いい顔」の人たちをつくる新建福岡支部の取り組み      大坪 克也

・新建活動の記録(2015年10月~2017年9月

 

◆新建のひろば
東京支部──「江戸の町を川から楽しむ」の報告
奈良支部──新建学校「住まいづくり『私の流儀』」の報告
大阪支部──「新建叢書①出版記念講演会」の報告
・「第49回全国保育団体合同研究集会」参加報告
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2017年7月1日~ 8月31日)

 

 

◆連載
《英国住宅物語8》戦間期のハウジング 近代ハウジングの萌芽      佐藤 健正
《創宇社建築会の時代28》戦後「建築運動」の復活           佐藤 美弥 
《新日本再生紀行11》鳥取県南部町                  岸田 一輝 
《20世紀の建築空間遺産24》東京文化会館 国立代々木競技場      小林 良雄 

 

主張『建築インテリア家具の職人・デザイナーを育てる』

ICSカレッジオブアーツ学長/新建全国幹事  丸谷 博男

 

 私が学校で学んだこと。それは次のような言葉でした。
 「人間の暮らしから考える建築でなければならない」
 「家具のレイアウトのない図面は建築ではない」
 「人の動きをイメージしなさい、そうすれば自然と図面が描けていくよ」
 これはデザインの原点です。人間のための人間がおこなうデザインなのですから。実は、この言葉は吉村順三の声とも思えるものです。芸大を卒業した学生の耳に残っている言葉です。 専門学校ICSカレッジオブアーツにも、このような想いが息づいています。その想いを若い人たちに伝えるために、インテリアや家具のデザイナーの大先輩たちがつくった学校だからです。「インテリアが建築をつくる、それが人間のための建築」、ここまで言い切ることができるのです。この歳になって、あらためて気付く原点です。
 デザインという仕事には卒業はありません。ICSでは2年から3年で学生を社会に送り出していますが、一生が勉強です。その学びと真剣な交流の場がICSにはあります。仕事についてからも学び続ける場を提供しています。
 人々が集い暮らし生産することに欠かせない建築・インテリア・家具、これをデザインし製造する、これほど楽しく豊かな人生はないのではないでしょうか。一人でも多くのみなさんに、インテリアとデザインの世界を経験していただきたいと願っています。
 ということで、ICSでは次のことを大切にしています。
 「モノのつくり方を知っている デザイナーを育てる」
 「デザインを理解している職人・マイスターを育てる」
 昨年の3月に長らく務めた芸大の非常勤講師を退任しました。その理由は定年です。初めて大学の授業のない生活が4月より始まりました。ところが数カ月も経たないうちに「職人を育てよう」という気持が燃え上がり、7月には専門学校の理事長に単身でプレゼンに行きました。ウェルカムでした。
 その後10月より新カリキュラムの作成に取り組み、多少現スタッフとの軋轢もありましたが、基本的には歓迎してくださり、今年の4月より始まった新学期からは力を合わせて教育を進めています。
 実際に教育の現場に入ってみると、今の若者たちのさまざまな状況に出会います。我々のような時代に育ったものとは大違いです。学生たちはとても繊細です。授業に出られない精神状態をかかえる日本人学生。50%をこえる留学生もさまざまで、意気揚々と学んでいる学生もいれば、とにかく欠席が続きなにをしたいのかコミュニケーションが取れない学生もいます。 そのなかで、一つの学校、一つの教室で異国の学生が学びをともにしている姿があります。大人たちは政治的に敵対しているなかで、ICSでは仲良く学んでいるのです。教育の場から平和が生まれ、平和だからこそ教育が成り立つ。とても重要なことです。デザインは平和のある社会でこそ、その価値が見出だせます。戦争のある状態では、そのような微妙な世界は存在し得ないと思います。
 小さな専門学校ですが、教育を通して、平和と文化を発信して行こうと考えています。日本文化の継承についても世界中のデザイナーが注目しているにもかかわらず、日本では教育のなかに強く反映されていません。小中学校や高校の教師自身が日本の文化に対する造詣が薄弱な状態なので、無理なことといえます。
 学び舎と平和。デザイナーと職人(マイスター)。対立とも一体とも言える概念ですが、専門学校の学長となった今、水平的思考、横断的思考で教育に取り組んでいます。

 


[東京支部]- 「江戸の町を川から楽しむ」の報告

  日時:2017年7月15日(土)

 

 7月15日に、「江戸の町を川から楽しむ」を実行、日本橋川と神田川を1時間で巡る乗り合いクルージングに乗船しました。オリンピック・パラリンピックや築地市場の移転問題など、東京には問題が山積みですが、こんな時だから、そもそも東京はどんなまちでどんな魅力があるのかも考えてみたいとの思いから企画しました。当日は好天に恵まれ、参加者は19名でした。

 日本橋川は、ほとんどの区間で上に高速道路がかかっていて、船に乗る身としては暑すぎず助かりました。地面と川の高さは比較的近いです。新旧25の橋が架かっていますが、名前にも物流の軸であった痕跡が見られ、ガイドさんの名案内は聞き応え充分でした。

 10万人の職人を集めて国家事業として築造された日本橋を船から見上げると、関東大震災の焼け焦げの跡が見られます。上流から燃えた船が流れてきて橋に引っかかって朝まで燃えたため、石が黒く焦げて石肌はがさがさになっています。これは、「関東大震災の記憶としてそのまま残そう」ということで修理しないで残してあるそうです。

 石垣と橋の復旧の取り組みは現在も進められており、二本ある「常盤橋」の古い方の橋は「東日本大震災」で緩んだため、解体して組みなおす工事が行われています。石材にはすべて番号を振り、日本橋川の両岸に仮置きされています。2018年3月に創建当時の姿でオープンされる予定です。

 神田川に合流する5本手前が「堀留橋」ですが、これはすなわち「お堀の終点」という意味です。「日本橋川」は江戸城の外堀で、もともとこの場所までしかなかったそうです。名前も「日本橋川」ではなく「平川」と呼ばれ、「暴れ川・平川」の水害対策のため明治36年、掘り足して神田川までつなげられました。神田川自体も江戸城防御のために人の手で掘削された人口の川(掘)であり、当時の土木事業のダイナミックさには改めて驚かされます。

 神田川に出ると、高速道路がなくなり、一気に夏の陽射しにさらされました。地面との高低差はかなり大きくなります。

 御茶ノ水駅周辺は「本郷台」と呼ばれる地盤の大変よい場所をV字型に人力で掘削しており、一帯は「御茶ノ水渓谷」と呼ばれます。2代将軍秀忠が伊達の謀反を恐れ、藩の財政をそぐため、伊達藩一藩にここの開削を命じました。大変な難工事で死者も多く出たそうです。御茶ノ水駅は耐震改修工事が終わりましたが、現在は川向かいの病院に直接渡れるようにするバリアフリー化の工事が進行中です。山田守が設計した名橋・聖橋も残念ながら改修工事中で、覆いがかけられていました。

 隅田川へ近づくにつれて地面との高さが近くなります。秋葉原近くの和泉橋の袂には、緊急時、災害時に使われる船着き場があります。秋葉原には「ヤッチャバ(青物市場)」があって運河が中まで引きこまれた船着き場がありましたが、その当時の面影が感じられます。浅草橋に近付くと、両側に屋形船が並び、柳橋の袂には川に突き出た老舗の佃煮屋さんも見られました。

 隅田川では、その力強い姿から「男橋」と呼ばれる「永代橋」と美しい吊橋で「女橋」と呼ばれる「清洲橋」を見ながら、東京スカイツリーの撮影スポットも紹介してもらい、最後はまた日本橋川に戻ります。

 日本橋に帰る途中に亀島川がありますが、もともとここは川の十字路で、反対側には箱崎川がありましたが、昭和40年代に埋め立てられてしまいました。東京の川や堀は、関東大震災や高度成長の時にほとんど埋め立てられ、現在高速道路が通っている所の多くが昔は川だったということです。その後、日本の株取引の中心地の兜町を通り、日本橋に帰ってきました。

 乗り合いクルージングは日本橋の袂から定期的に運行しています。今は町に背中を向けられている川ですが、日本橋周辺では高速道路の地下化も発表され、改めて活用の動きが出てきました。注目したいと思います。

(東京支部・片柳順平・松木康高)


[奈良支部]- 新建学校「住まいづくり『私の流儀』」

  日時:2017年7月15日(土)

  場所:郡山市の日本料理店「季乃庄」

 

 7月15日、郡山市の日本料理店「季乃庄」で14名が参加し、奈良支部新建学校山本厚生氏講演会「住まいづくり『私の流儀』」が開催されました。関西ブロック合同企画としての開催とし、大阪·京都からも参加者がありました。講演会から懇親会まで、終始和やかな雰囲気の中で進められました。

 山本氏は、「暮らしは住む人自身の手作り。我々は専門家としてお手伝いするだけです」と切り出されました。山本氏の住まいづくりは、丁寧に住む人の暮らしや家族の関係性を柔軟に多角的につかむことから始めます。住まいは家族が生活空間を共有し新しい命をつなぐ場所でありながら、さらに個人が自分らしく生きるための場所でもあります。家族によって一日·一年の暮らしの流れ、生活行為の方法、家風までさまざまで、まずは自分の価値観を出さずにありのままをつかみ取ることが大切だそうです。そこから本音を引き出し要求と課題を明確にする。私は日々住む人に寄り添う設計を心がけていますが、住む人の本音を引き出すことは一番難しいことだと感じています。その方法はまさに一番知りたいことでした。打合せの中で印象に残りやすいのは、強い思いにより発せられる言葉です。しかしふとした時に出てくる言葉、発言の少ない人の言葉の中にも大切な意味が込められています。そしてそんな見えにくいところにあるのが本音なのでしょう。

 家族間の課題には家族でぶつかって解決方法を見つけることが大切で、住む人自身が決めるという自覚を持ってもらわなくてはいけない、我々は決める手伝いをするだけですと話されました。自分自身を振り返ってみると、住む人の話を聞くことばかりに注力し、住む人の自覚と決断を促す力に欠けていました。「住まいづくり」は人まかせではなく、住む人が自分たちで作っていくのだという覚悟と自覚を持ってもらいたいです。そしてその気持ちが、住まいを大切にする気持ちへとつながっていくと思います。

 そして要求のすべてを満たす方法を追求する段階では、打合せの場に資料を作って持っていかないとの発言に驚かされました。打合せの前日は準備に追われる自分の日常とずいぶん違います。事前に情報を整理するだけで、打合せの場で住む人と一緒に考え、その過程でも観察を繰り返し、その中で新たな関係性やその家族の個性が発見できるそうです。この手法はなかなか高度ですから、私が実践するのは少し先になりそうです。また「押しつけ」や「見せもの」のデザイン観ではなく「普遍化」が可能性を広げ生活を豊かにすることや、作る人·住む人との良い関係の大切さ、現在取り組まれているご自身の終の棲家のことなどを話されました。自然素材と伝統工法にこだわり、地域とのつながりを大切にするという山本氏の終の棲家を、ぜひ訪ねてみたいと思いました。

 山本氏の温もりにあふれた住まいづくりの進め方に、多くの気付きがありました。今後の活動の糧として心に刻みます。そして結びに話された、世の中は変わるけれど自然と伝統は生き続けること、自分らしく生きて人とのつながりを豊かにすることが大切だという内容にもとても共感しました。人とのつながりの中で、自分らしく生きることこそが、普遍的な「人の暮らし」です。その自然な営みがあたりまえに継続できる社会であり続けてほしいと、強く願うばかりです。

(奈良支部· 渡邊有佳子)


[大阪支部]- 「新建叢書①出版記念講演会」

  日時:2017年7月29日(土)

  場所:OLAフィールド

  参加者:支部会員5名、他支部2名、会員外3名、計10名

  7月29日(土)に新建関西ブロック企画・大阪支部主催で、昨年出版された新建叢書①『大規模修繕どこまでやるのいつやるの』の著者の、大阪支部会員で全国常任幹事でもある大槻博司さんを招いて、講演会を開催しました。

 「マンション修繕の常識」と題して、拡大するマンションの大規模修繕の現状とさまざまな問題点、実際の調査診断と修繕工事について講演していただきました。

 大槻さんは1995年から設計事務所を主宰され、住宅などの設計をされながら、集合住宅維持管理機構の主任専門委員として数多くのマンションの調査診断と修繕工事の設計・監理に携わってこられました。

 近年、マンション新築工事の減少とは逆に6000億円市場となった大規模修繕にコンサルタントや建築業者が群がってきています。一部の悪徳コンサルタントは管理組合をだまし、不当なマージンを得ていることが大きな社会問題となっています。

 本来、大規模修繕は適切な調査診断を元に行われるもので、①修繕履歴の整理②住民へのアンケート調査③現地調査④調査結果の報告と進めていきます。

 大槻さんが実際に携われた現地調査の実例では、躯体コンクリートの中性化深度と鉄筋の状態、外壁塗膜やタイルの付着強度試験、設備配管調査などを分かりやすく説明いただきました。

  また、調査診断の目的は大規模修繕工事ありきで行うものではなく、調査後すぐに工事とは限りません。診断結果によっては先延ばしにする判断もあると大槻さんは言います。

 国土交通省が出している「長期修繕計画ガイドライン」では、外壁塗装や防水は12年周期で行うように指導されていますが、近年、外壁はタイル貼りが多くなり塗装材の耐用年数ものびており、鉄製の手すりはアルミ製に変わってきています。

 一般論に惑わされず、調査診断によって現状を正しく把握した結果によって大規模修繕の時期を設定し、著しい劣化損傷や美観の低下がなければなるべく先延ばしにする。また、大規模だからといって建物すべてが対象とは限らず、足場がなくてもできる工事、屋上や廊下などは必ずしも同時に実施しなくても良いと大槻さんは言います。

 これからの住宅ストック時代において、築30年からのマンションづくりが重要になってきています。①高齢化に対応する②安心・安全性を高める③利便性・機能性を高める④コミュニティを継続発展させる、ことによって空き家をつくらないことが重要です。また、住民主体のコミュニティづくりのサロンやイベントを行っているところもあります。

 大槻さんが実際に携われた改修の実例では、ちょっとした工夫で美観を保つ雨汚れ対策、エントランスホールのイメージアップ、エレータの新設、耐震改修、などが紹介されました。

 国は老朽化・空き家化が進むマンションの建替えを推進していますが、住み継がれるマンション、建替えない再生を目指しましょうと、大槻さんは締めくくられました。

 会場は支部代表幹事の伴さんのOLAフィールドをお借りし、当日の参加者は支部会員5名、他支部2名、会員外3名、計10名で、後の懇親も大いに盛り上がりました。

(大阪支部・栗山立己)