2020年12月号(502)

特集 新建/次代の展望を拓く

建築とまちづくり運動の発展を目指し─展望を拓く議論をすすめよう:片井 克美/《第1座談会》新しい生き方、働き方:大塚謙太郎・川田綾子・中島 明子・中島健太郎・山本厚生・高田桂子/《第2座談会》変わる世界と真の技術:江藤眞理子・佐々木文彦・高本直司・伴年晶・福田啓次・大槻博司/《第3座談会》グローカル時代の地域社会・コミュニティ:片方信也・岸田一輝・馬場麻衣・藤本昌也・山田雄斗・桜井郁子/主張「会員同士の非正規なつながりを(復刻)」:本多昭一/新建ビジョン2200:大坪克也/ すべての住民の持続的生活向上を原点とする住民・建築人の共同のイメージ

──「生活・住まい・まちづくり」を主題に: 黒崎羊二/木のすまいをつくり続ける:稗田忠弘/

若い世代に送るエール:松井昭光

新建築家技術者集団50年の歩み

◆新建のひろば

「コロナ禍の住宅問題はどう進行しているか」院内集会の報告

オンラインによる第32回全国研究集会オープニングセレモニー

全国研究集会分科会がオンラインで始まります

◆連載

《世界の災害復興から学ぶ(11)》 紀伊半島大水害からの十津川の復興    室崎 益輝

《日本酒蔵紀行 》真庭市勝山                      赤澤 輝彦

《暮らし方を形にする( 11)》我が家をまちのたまり場に          山本 厚生+中島 

主張

コロナ禍とすまい─人間の尊厳にねざした「公助」を                 久永雅敏もえぎ設計顧問/全国常任幹事

新型コロナが猛威をふるい、感染対策に無為無策の事態が続いているさなかに、日本学術会議の

委員任命拒否という自由と民主主義を破壊する暴挙が行われ、この国は一体どこに向かおうとして

いるのか不安を抱きます。

 厚生労働省によるとコロナ禍に関連する解雇や雇い止めが、10月末の時点で見込みを含めて6

8千余人に達したという報道があります。これは公的機関への相談件数をもとにしたもので、実態はもっとひどいとの指摘もあります。とりわけ非正規労働者の実態は厳しく、さまざまな生活分野で貧困があらわになってきています。ここではコロナ禍であらためて問われることになったすまいの危機について考えてみたいと思います。

 新建の代表幹事の一人の中島明子さんは、7月に行われた『国民の住まいを守る全国連絡会』(住まい連)などが主催したシンポジウム「コロナ危機、災害多発と公的住宅の役割」でコロナ禍で明らかになった居住の危機を以下のように指摘します。

①すまいを失うという危機(生存権の危機)

②広義の「ホームレス状態」にある人々の感染の危機・居住の危機

③貧困な生活保護施設

④低質な民間宿泊所(無料低額宿泊所)

⑤在宅勤務と家事育児・介護の負担(StayHome

⑥パートナーからのDVや児童・高齢者虐待(住宅という密室への籠り)

 非正規労働者がコロナ禍で解雇をせまられ、家賃が払えなくなり、すまいを失うという事態が頻発しているなかで、上記のいずれの指摘も国連人間居住計画(ハビタット2)の宣言「居住の権利は最も重要な基本的人権」が大きく侵害されていることを示しています。すまいを失って行政に生活保護の申請をしたところ、生活保護の家賃扶助の範囲内で借りられる住宅がないため無料低額宿泊所を紹介されたという話も聞きます。民間の無料低額宿泊所は脱法ハウスと呼ばれるところも多く、トイレも台所も共用で、とても人間の住む場所ではないと指摘されています。コロナ禍を機に住宅問題への長年の無策の実態が、こんな形で表れているといえます。

 このような事態を受けて住まい連などの住宅団体は「安定した住まいの確保」に向けて運動を強めています。

 もっとも緊急に求められているのが「住居確保給付金」の支給期間の延長をはじめとする制度の改善と予算の拡大です。この制度は「新型コロナウイルス感染症の影響による休業等に伴う収入減少により住まいを失うおそれが生じている方等に対して給付金を支給することにより、安定した住まいの確保を支援する」制度で、今年の4月から8月の間、すでに9万件を超える申請があったと報道されています。しかし、支給を受けるための収入要件や支給額など制度の枠組み全体が生活保護基準を基本としているなどの問題があり、緊急の課題に適切に対応できないという問題が指摘されています。

 また、公営住宅の活用、改正セーフティネット法による登録住宅の促進や利用なども課題としてあげられています。

 かつて私たちの暮らしを支えてきた「地縁」は姿を消し、「血縁」ですらその役割を失ってしまう社会に変化してきました。それに代わって人々の暮らしを支える役割を担うことになったのが社会保障であり社会福祉という「公助」と、身近な地域の共同体(コミュニティ)の存在ということができます。しかし、新自由主義を背景にそれすら弱められ、今回のコロナ禍による被害を拡大させる大きな要因になりました。

 私たちが関わる建築とまちづくりの分野も同じ状況で、とりわけ人間らしいすまいを守り、創ることの重要性がいよいよ明らかになっています。格差と被害がこれ以上広がるのを防ぐために、私たち自身がまず無関心から抜け出し、連帯と共同の社会に向けて発言し、行動することが求められています。

 

新建設立50周年記念特集─11

新建/次代の展望を拓く

2020年の50周年記念特集は、昨年春先から編集委員長を先頭に論議し企画を練ってきたものです。新建50周年にふさわしく各分野の取り組みの積み重ね、そして10月に通算500号を迎える本誌をどのような内容で迎えるか議論を重ねました。

 11月号までは当初企画したように発行されてきました。12月号は51年目に踏み出し、これから50年後100年後までも展望した新建のあり方を確認していく特集を予定していましたが、議論を積み上げることが困難な状況で、当初企画を諦めざるを得ませんでした。新型コロナ感染拡大が深刻になり、秋に予定していた50周年記念企画は、春には延期の決定を下しました。支部で集まることもできない状況が生まれ、全国の会員が一堂に集まって新建を語り合う機会が極端に少なくなりました。

 そこで、今号では来年には本格的な議論を再開していくための下準備を行う特集と位置づけて、常任幹事会の来年に向けての決意「展望を開くために、大いに議論を進めよう」、3分野の座談会、経験ある会員による展望を拓くための提言、の3項目を軸に構成しました。座談会は「新しい生き方、働き方」「変わる世界と真の技術」「グローカル時代の地域社会とコミュニティ」の3分野です。代表幹事や経験豊富な会員と中堅若手会員の組み合わせで行いました。

 座談会を経て感じることは、コロナ禍というこれまで経験したことがない状況の中でも新建会員の実践は止まってはいなかったことです。「コロナ後の世界は変わる」は実は、新自由主義の流れの中でねじ曲げられてきた建築とまちづくりのベクトルを変えるチャンスが今だということです。リモートワークやAIなど目先の変化に惑わされる必要はなく、会員ひとりひとりの実践が、この50年の新建の歴史の成果であり希望です。

  来年に向かって大いに展望が語り合える視点やキーワードを、数多く準備できたように思います。今だからこそ新建憲章に基づく建築運動を大いに進めていきましょう。

担当編集委員/桜井郁子 高田桂子 大槻博司 永井 幸 

◆新建のひろば

「コロナ禍の住宅問題はどう進行しているか」院内集会の報告

コロナ禍で住居を失う人を支援する「住居確保給付金」が年末で打ち切られようとしています。住宅確保給付金事業は住宅を失う人からの申請と決定が激増し、103918人に149億円が支給されています。国民の住まいを守る全国連絡会(住まい連)、住まいの貧困に取り組むネットワークは厚労省の「住宅確保給付金」の年末打ち切りに対し、支給期間延長を要請しました。緊急要請書は支給期間

1年間への延長、支給要件、収入要件、支給額の改善と拡充、予算の大幅増大や公営住宅、セーフティーネット住宅への転居支援などを求めています。緊急要請署名は賛同電子署名の取り組みを行い、団体、個人から短期間に2500人の賛同を得て、田村厚労大臣に提出しました。

1119日、住まい連と住まいの貧困ネットは高橋千鶴子衆院議員同席のもとで厚労省に2500名の署名を提出し、「住居確保給付金の支給期間9カ月の延長をはじめとした同制度の抜本的改善と拡充を求める緊急要望書」への回答を求めました。住まい連坂庭代表幹事は「年末が迫っており早急な決断を」ネットワークの稲葉世話人は「再び年越し派遣村に取り組まないよう」と訴えました。厚労省は両団体会員、マスコミの前で「各所から要望が上がっており、支給期間の延長を検討している」

と回答しました。

 厚労省との署名提出、要請集会に引き続き、住まい連、住まいの貧困ネット共催の「コロナ禍の住宅問題はどう進行しているか」院内集会が開かれました。院内集会には国会議員6名(立憲3名、共産2名、社民1名)はじめ60名が参加して、コロナ禍の住宅問題、住居確保給付金、家賃補助、公的住宅について盛り上がった報告と討論が展開されました。集会主催者あいさつで、坂庭住まい連代表幹事は「厚労省交渉で2500名の緊急署名により支給延長の検討が明言された。セーフティーネット住宅の家賃低廉化は全国41自治体とまだ進んでいない。コロナによる収入減少者への公営住宅提供も1425戸確保に対し403戸しか入居していない」と述べました。

 院内集会ではジャーナリストの藤田和恵氏が「住まいの貧困と無料低額宿泊所、公的住宅の役割」のテーマで講演し、自治体は無料低額宿泊所に生活保護利用者を強制入居させているが、コロナ禍で粗末な食事、ベニヤで仕切られた個室など劣悪な生活環境、事業者にピンハネを強いられている「無低」の実態を報告しました。特別発言で上智大教授の稲葉奈々子氏は「外国籍の人びとの居住問題-新型コロナ災害緊急アクションの支えあい基金支給の実態から」の報告で、「コロナで困窮している外国籍の人びとへの生活支援「緊急支えあい基金」1億円を寄付してもらい、10か国、1037人に生活、居住支援した」と述べました。集会は「コロナ禍の住宅問題の進行」について住まい連各団体からリレートークしました。住まいの貧困ネット、東借連、東京公住協、神奈川公団自治協、東京公社自治協、UR労組、都職住宅支部、NPO建築ネット、最後に住まいのつくり手の中小建設業者団体JKの会として「大手ゼネコンではコロナ感染事例があるが、中小建設業の現場では感染防止を徹底し作業員、近隣への感染を食い止めている」と発言しました。

 坂庭代表幹事は閉会のあいさつで「緊急署名が厚労省の期間延長の検討を引き出した。コロナ対策要請は5項目あり、家賃補助、公的住宅など運動課題は残されている。引き続き取り組みを強めよう」と述べました。                         (新協建設工業・星野輝夫)

オンラインによる第32回全国研究集会オープニングセレモニー

本年は新建設立50周年記念企画として全国研究集会が開催される年でした。コロナ禍により集まっての開催ができなくなり、オンラインでの研究集会となりました。1122日(日)10時より全体企画オープニングセレモニーが開催されました。片井議長の進行により始まり、山本厚生代表幹事の「新建50周年における研究集会の意義」と題した記念講演がありました。講演の要旨として次の五つの章が上げられました。

①新建が実行した建築運動50年の功績

31回までの研究集会の成果と32 回からの新たな課題

③暴走する生活環境破壊とその改善のせめぎあい

④住民の権利の自覚と実行力が世の中の流れを変える

⑤これからの私たちの生き方と期待される新建の役割、です。

 新建の大きな流れとして設立当初、その後10年して入会した会員の様子、新しい世代と言われた人たち、そしてこれから。研究集会の取り組み方がどう変遷してきたか、そしてコロナ禍を経て新しいスタイルを創造する段階にあること。専門家として住民とともに住まいづくり、まちづくりにどう取り組むかなど、これまでの新建の歩みを振り返り、その成果を評価し、これからの新建の課題と展望を示す、大変明快で奥深い内容の話でした。私は率直にかつてないほど感動しました。

 講演のあと、フリートーキングに入りましたが、その思いは参加者共通のようで、何人もの方から「感動した」という発言がありました。また「住んでいるところでのまちづくりに参加」について参加者自身の取り組み紹介の発言も続きました。話に勇気づけられ、高齢になってそろそろ引退を考えていたが、地域の環境審議会委員に申し込むことにしたという発言もありました。講演の内容は『建まち』誌に掲載される予定です。ご一読ください。この後、研究集会分科会スケジュールなどの説明

があり、閉会となりました。参加者は13支部52名。ZOOMでの講演、意見交換とも聞き取りやすく、よいオープニングセレモニーになったと思います。なお確定している分科会のスケジュールは新建ホームページに掲載されているのでご覧ください。また分科会参加申込していない方の飛び入り参加も可能です。                      (千葉支部・加瀬澤文芳)

全国研究集会分科会がオンラインで始まります

最新情報は新建HPの新建カレンダーにてご確認ください。

開催場所:Zoom会議室

参加申込は下記、申込フォームからお願いします。 https://bit.ly/3jJSc3f

お申込みいただいた方にはZoom会議入室URLを前もってメールいたします。